アスリートを陰で支える!薬剤師だからこそできる“選手を守る仕事”
そんなスポーツの舞台裏に、薬の専門家である薬剤師が関わっていることをご存じでしょうか?
実は、選手が軽い気持ちで服用した風邪薬が、思わぬかたちで競技に影響することもあるのです。
この記事では、まだあまり知られていない「スポーツファーマシスト」の役割や活動をご紹介します。
目次
世界陸上2025開幕!その裏側にいる「薬のプロ」

トップアスリートが繰り広げる最高のパフォーマンスはとても楽しみですが、オリンピックや世界大会では必ずと言っていいほどドーピングが話題に上ります。ドーピングとは、禁止されている薬物や方法によって、競技能力を不正に高める行為のことです。意図して禁止薬物を使用するのはもちろん許される行為ではありませんが、市販の風邪薬やサプリメントを飲んで、ドーピング検査で陽性になることがあります。アスリートだって風邪をひくこともあるでしょう。病院に行くほどではないけれど、早く治したい時はどうすればいいのでしょうか?
そんな時に活躍するのがスポーツファーマシストです。アスリートがうっかり禁止薬物を摂取(“うっかりドーピング”と言います)しないようにサポートする専門家です。
わたしが出会ったスポーツファーマシストの世界

子育てが落ち着いてからマスターズ陸上を始めた私は、世界大会に出場する機会を得ました。驚いたことに申し込みの要項には「ドーピング検査がある」と書いてあります。
私は、花粉症の薬を飲まないとくしゃみと鼻水が止まりません。でも、もしその薬を飲んでドーピング検査で陽性になったら・・・自分だけでなくチームのメンバーに迷惑が掛かります。困っている時に、Web検索でスポーツファーマシストという存在を見つけました。
早速、飲んでいる薬、万が一の時(発熱、腹痛等々)に飲む薬についてメールで問い合わせました。花粉症の薬、解熱鎮痛薬(発熱、頭痛、捻挫等の疼痛時に服用)、整腸剤は問題ありませんでしたが、総合感冒薬(風邪薬)は禁止薬物であるエフェドリンを含むため、試合前1ヶ月から飲まないようにと返事をいただきました。
おかげさまで安心して試合に出場できました。
スポーツファーマシストってどんな仕事?

スポーツファーマシストは、薬剤師の資格を持っている人が講習会に出席して、資格試験に合格すると取得できます[1]。
長年関わってきたスポーツに何らかの形で貢献したいと思い、私もスポーツファーマシストの資格を取得しました。
勉強していくうちに、病気の治療薬として薬局で出される薬なのに、禁止薬物に指定されている薬が多く存在することが分かりました。持病のあるアスリートが、治療のために薬を服用しているのにドーピングになってしまう可能性があるということです。
「病気の人にとっては治療薬。それをドーピングと言われても…」と疑問に思いましたが、そんな場合もスポーツファーマシストに相談です。
同じ薬効を持つ、禁止されていない他の薬に替える提案をしてもらえます。
ただし、どうしてもその治療薬しかない場合は治療使用特例(TUE)※の申請をします。
※治療使用特例(TUE)とは
アスリートが病気やケガの治療のために、禁止されている薬をどうしても使わなければならない場合に、事前に申請して許可を受ける制度のこと。
例えば…
・喘息の治療でどうしても禁止薬物にあたる薬を使わなければならない
・糖尿病や心臓の持病で、特定の薬を継続して使わなければならない
といったケースがあります。
薬のルールは毎年変わる!常に最新の知識が求められる

スポーツファーマシストの役割は、アスリートの薬の問い合わせに答えるだけではありません。アスリートやコーチ、競技団体へドーピング防止のためのアンチ・ドーピング教育にも関わっています。
禁止薬物は毎年更新されるため、私たちも年1回Web講習を受ける必要があります。
うっかりドーピングでアスリートの努力が水の泡にならないように、素晴らしい記録やメダルを剝奪されることが無いように努力しています。
薬のプロとして、スポーツの舞台裏を支えるやりがい

ドーピングが禁止されている主な理由は、以下の4つです。
1. 選手の健康を害する
2. アンフェアである
3. 社会に悪影響を与える
4. スポーツの価値を損なう
薬剤師の使命は、人々の健康を守ることです。
スポーツファーマシストもまた、その使命を胸に、薬のプロとして選手の健康と競技の公正さを支える存在です。
アスリートからの薬の相談に応じたり、教育活動を通して「うっかりドーピング」を防いだりと、舞台裏で大きな役割を果たしています。まさに“選手を守るやりがいのある仕事”だと感じています。
薬剤師としてもスポーツファーマシストとしても、健全で健康なアスリートが、それぞれの最高の舞台で一番輝けるように、今後も出来る限りのサポートをしていきたいと思っています。
【参考文献】
[1]公認スポーツファーマシスト制度:https://sportspharmacist.jp/