研究

家族と食卓を囲むのが難しい時代に―子どもの心を支える「共食」のかたち

家族と食卓を囲むのが難しい時代に―子どもの心を支える「共食」のかたち
子どもにとって「共食(家族や誰かと一緒に食事を摂ること)」が心身の健康に良い影響を与えることは、さまざまな研究で示されています。しかし、共働き家庭の増加や子どもの塾・習い事の多忙さなどから、家族がそろって食卓を囲むことが難しい家庭も少なくありません。
では、そんな現代において、子どもの健やかな成長のために大切なことは何でしょうか。この記事では、共食の現状とその心理的効果、さらには、家庭以外で広がる「共食の場」の可能性について近年の調査や研究をもとに紹介します。

目次

 

年齢とともに減少する「家族との共食」―子どもが一人で食べる背景とは?

年齢とともに減少する「家族との共食」―子どもが一人で食べる背景とは?

2005年に「食育基本法」が施行されて以来、「子どもの家族との共食」は、常に食育の重要な課題として位置付けられてきました。

では、実際に子どもたちは、家族とどの程度一緒に食事をしているのでしょうか。「令和3年社会生活基本調査」によると、家族と食事をしている割合は、小学生では朝食81%、夕食87%と8割を超えているものの、中学生では朝食70%、夕食81%、高校生では朝食55%、夕食76%と年齢が上がるにつれて減少しています(1)。さらに、別の調査(2)では、朝食を1人で食べることがよくある割合は、小学校5、6年生で1割強、中学生で約35%、高校生では半数以上に達しています(図1)。また、夕食を1人で食べることがよくある割合が、小学校5、6年生で約2%、中学生で1割弱、高校生で約2割と、こちらも年齢が上がるにつれて増加しています(図2)。

このような背景には、子どもの部活動や塾・習い事の多さに加えて、親の長時間労働や共働き家庭の増加、核家族化などが挙げられます(1)。

図 1 朝食を1人で食べている子どもの状況(%)

(日本学校保健会, 2018:「朝食を1人で食べている状況」をもとに筆者作成)

 

図 2 夕食を1人で食べている子どもの状況(%)

(日本学校保健会, 2018:「夕食を1人で食べている状況」をもとに筆者作成)

 

 

大切なのは「量」より「質」―食卓のよい雰囲気と会話が子どもの心を育てる

大切なのは「量」より「質」―食卓のよい雰囲気と会話が子どもの心を育てる

家族で一緒に食べる回数が多い子どもは、心の健康状態が良く、食事の質も高いことが報告されています(3)。しかし近年の研究では、単に「一緒に食べる回数」よりも、「食事中の会話」や「食卓の雰囲気」が子どもの心の健康や安心感に強く影響することが明らかになっています(4)。筆者が中学生を対象に行った調査でも、「食事中に会話がある」と生活満足度の向上や抑うつの低下に寄与することが分かりました(5)(図3)。家族との会話を通じて、子どもは安心や楽しさを感じ、「自分は大切にされている」という感覚を得ることができます。特に、思春期の子どもは心身の変化が大きく、学校生活や人間関係に悩みを抱えることも少なくありません。そんな時期に、家族との会話がストレスを軽減させ、心の安定に重要な役割を果たします。

 

図 3 食事中の会話と精神的健康との関連図

 

 

家族全員がそろわなくても大丈夫、「誰かと食べる」ことが大切

家族全員がそろわなくても大丈夫、「誰かと食べる」ことが大切

現代の家庭では、家族全員がそろって食事をすることが難しいのが現実です。実際、中学生の1割近くが朝食・夕食ともに1人で食べているという調査結果もあります(5)。それでも、家族の誰か1人とでも一緒に食事をすることが、子どもの心の健康にとって重要です。小学校高学年を対象とした調査では、週に1回でも家族と食事をすることで、食卓の雰囲気が良くなることが報告されています(6)。つまり、「毎日は無理でも週末に一緒にごはんを食べる」など、「誰かと食べる時間」を作ることが、子どもの心の健康や安心感を高める鍵となります。

 

 

こども食堂や学校の朝ごはん―家族以外の支えとなる食卓

こども食堂や学校の朝ごはん―家族以外の支えとなる食卓

家族との共食が難しい子どもたちにとって、地域や学校が提供する「共食の場」も大きな支えとなります。例えば「こども食堂」は、地域の人たちが協力して、子どもたちに温かい食事と団らんの場を提供する取り組みです。最近では、貧困家庭に限らず、誰でも気軽に参加できる場所として広がっています。

また、「学校朝食」の取り組みでは、家庭で朝食を食べられない子どもや孤食になりがちな子どもに向けて、学校で朝食を提供しています。これらの活動は、家庭での共食を補い、「誰かと一緒に食べる」経験を子どもに届ける貴重な場となっています。

 

 

食卓は子どもの心を育むコミュニケーションの場

近年の調査研究によって「何を食べるか」だけでなく、「誰と食べるか」「どんな会話があるか」が、子どもの心の健康に深く関わっていることが明らかにされています。スマートフォンやタブレット、PCなどに向かうスクリーンタイムの増加や個々に過ごすことが多い現代だからこそ、毎日の食事時間が家族の会話を育む貴重な機会となります。

今一度、家族との食事の時間を見つめ直し、「誰かと一緒に食べること」を意識してみませんか。それが子どもの心を支える大きな力になるのです。

 

【参考文献】

(1) 符川公平(2024). 社会生活基本調査から見た小・中学生の欠食・孤食と主観的健康 New ESRI Working Paper, 72, 1-18.

(2) 日本学校保健会(2018). 平成28~29年度調査 児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書

(3) 會退友美・衛藤久美 (2015). 共食行動と健康・栄養状態ならびに食物・栄養素摂取との関連―国内文献データベースとハンドサーチを用いた文献レビュー― 日本健康教育学会誌, 23, 279-289.

(4) Offer, S. (2013). Assessing the relationship between family mealtime communication and adolescent emotional well-being using the experience sampling method. Journal of Adolescence, 36, 577-585.

(5) 江崎由里香 (2023). 中学生における家族との共食と心理的ウェルビーイングとの縦断的関連 日本家政学会誌, 74, 332-345.

(6) 江崎由里香・別府哲 (2012). 小学生の親子関係と共食観および食卓の雰囲気との関連 日本家政学会誌, 63, 579-589.

 

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この記事を書いた人

  • 江崎 由里香
    江崎 由里香 えさき ゆりか
    所属:
    臨床検査学科
    学位:
    博士(人文科学)
    専門分野:
    教育心理学、家政学

    家族との共食と子どもの心理的ウェルビーイングやレジリエンスとの関連を中心に研究をしています。小中学生や大学生を対象に、食生活と家族関係、精神的健康との因果関係を検討し、食育の実践的手法として「食生活ダイアリー」なども提案。教育心理学と家政学の視点から、食を通じた子どもの健やかな成長支援を目指しています。

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