実は、その“常識”では守れない食中毒があるんです。特に、免疫力がまだ弱い子どもたちは要注意!
夏は食中毒が増える季節。身近な菌の特徴と、今日からできる予防策を学んで、大切な家族を守りましょう。
目次
夏に多い「食中毒」、本当にこわいのはどんなこと?

夏は気温も湿度も高く、菌が増えやすい季節。食べ物に潜んでいる「食中毒菌」が原因で、腹痛や下痢、発熱などの症状が出ます。
でも中には、お腹の症状だけでなく命にかかわるようなケースもあります。特に小さな子どもや高齢者は、重症化しやすいため注意が必要です。
冷蔵庫に入れたのに?「低温でも増える菌」の存在
表1 エルシニア・エンテロコリチカ集団感染事例(文献1)

冷蔵庫は食品を長持ちさせる便利な場所ですが、実は万能ではありません。
「エルシニア菌」という菌は、4℃という冷蔵庫内の低温でも増殖できるのです。表に示すように、学校などで通常冷蔵庫保存される食材にエルシニア菌が汚染・増殖したことによる集団食中毒が発生しています[1]。
つまり、「冷蔵庫に入れていたから安心」とは言い切れず、低温でも増える菌の存在に注意が必要なのです。
「加熱すれば安全」はウソ?しぶとい菌にご注意!

たいていの菌は火を通せば死にますが、中にはしぶといものもいます。
たとえば「ウェルシュ菌」は熱に強く、芽胞という硬いカプセルのような形で身を守ります。100℃で加熱しても芽胞は残り、後から増殖することがあります[2]。さらに、「黄色ブドウ球菌」は毒素が問題。菌そのものは加熱で死にますが、作られた毒素は100℃で30分加熱しても壊れません[3]。
「火を通したから安心」と思っていても、実は料理の種類や調理・保存方法によって、菌が残ったり毒素が残ってしまったりするケースがあるのです。
そこで、よく食卓にのぼる食材や料理ごとに、どんな菌に注意が必要で、どんな対策をすればよいのかを、以下の表にまとめてみました。家庭での予防の参考にしてみてください。
| 食材・料理 | 主な原因菌/ウイルス | 対策ポイント |
|---|---|---|
| 肉(牛・豚・鶏など) | 大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど | 十分な加熱・交差汚染防止 |
| 魚介類 | 腸炎ビブリオ、ノロウイルス、A型肝炎ウイルスなど | 清潔調理・十分な加熱・交差汚染防止 |
| 生野菜・果物・サラダ | 他の食材(肉や魚介類など)からの交差汚染など | 器具の洗浄・使い分け |
| おにぎり・サンドイッチなど | 黄色ブドウ球菌(耐熱毒素)など | 清潔調理・早めの喫食 |
| カレーや煮物類 | ウェルシュ菌(芽胞)など | 一度に食べきる量の調理 |
食中毒は「うつる」こともあるって知ってた?

家畜の腸内には、お肉が原因となる食中毒菌の腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌などが棲息している場合があります[6]。中でも、「腸管出血性大腸菌」は、ヒトに食中毒を発症させる菌数はわずか50個程度と考えられており、ほんのわずかな菌でも人にうつることがある強い感染力を持っています。実際に、2022年に大阪市内の保育施設で発生した事例では、保育園の園児に感染が判明し、施設に通う他の保育園児や職員にも感染が広がり、感染者全員が検査や治療を受けることになりました[4]。家庭内では、トイレの共有や手拭きタオルの使い回し、調理の際の接触などを通じて感染が広がる可能性があります。特に小さなお子さんがいるご家庭では、トイレの後やおむつ替えの後、食事の前などに、正しい手洗いを丁寧に行うことがとても重要です。家族全員で手洗いの習慣をつけることで、感染の広がりを防ぐことができます。
「お腹の病気」だけじゃない!まれに命に関わるケースも

「腸炎ビブリオ」は、特に夏の海水で増える菌で、魚介類につきやすい細菌です[5]。生魚を食べた後に腹痛や下痢が出ることが多いですが、まれに心臓や腎臓に影響が出ることも。暑い時期は刺身や貝類の取り扱いに注意し、必ず新鮮なものを選び、しっかり加熱するようにしましょう。
今日からできる!家庭での食中毒予防3つのポイント
今日からできる家庭での食中毒予防の3つのポイントをご紹介します。どれも基本的なものですが、大切なことです。

01の手洗いについて、正しい手洗いの仕方も紹介します[7]。
お子さんと一緒に親子で手洗い習慣を見直してみるのはいかがでしょうか。

おわりに:食中毒の“常識”を疑って、大切な人を守ろう

「冷蔵庫に入れたから安心」「火を通せば大丈夫」——そんな“思い込み”が、大切な人を危険にさらしてしまうかもしれません。
特に夏場は、食中毒のリスクが高まる季節。日頃のちょっとした心がけが、家族の健康を守るカギになります。
【出典】
[1] エルシニアによる集団感染事例と豚肉からのエルシニア検出状況:東京都微生物検査情報
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/epid/2017/tbkj3805.pdf?utm_source=chatgpt.com
[2] ウェルシュ菌 食品衛生の窓:東京都保健医療局
https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/uerusyu.html
[3] 黄色ブドウ球菌 食品衛生の窓:東京都保健医療局
https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/oushoku.html
[4] 保育施設における腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例(第1報):国立健康危機管理研究機構
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/44/523/article/110/index.html
[5] 腸炎ビブリオ 食品衛生の窓:東京都保健医療局
https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/tyouen.html
[6] お肉の食中毒を避けるにはどうしたらいいの?(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000340579.pdf
[7] 令和2年度富山市医療介護連携研修会資料より(改変)
https://machinaka-care.city.toyama.lg.jp/attach/EDIT/000/000537.pdf