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PMS(月経前症候群)ってなに?

PMS(premenstrual syndrome/月経前症候群)は、生理の前の1〜2週間に心や体に起こるさまざまな不調のことをいいます。特徴としては①生理開始の3〜10日前に症状が現れる、②生理が始まると2〜3日で消える、③この症状が2回以上の月経周期で繰り返されるといった点が挙げられます[1]。PMSは集中力やモチベーション、学習成績など学校生活やQOLに負の影響を及ぼします[4]。
症状は人によって異なり、「だるい」「イライラする」「甘いものが食べたくなる」「泣きたくなる」など、実に150種類以上が報告されています。女子高校生204人を対象とした私たちの調査でも、女子高校生の6割以上がPMSのような症状を経験していることがわかりました(図1)。「自分だけ変なのかな」と悩む人もいますが、実際には多くの人が同じように不調を抱えています。まずは「知ること」が安心への第一歩です。

さらに、同調査では、中度以上のPMSが28%、軽度が46%と、約7割がPMSを抱えていることがわかりました(図2)。中度以上の割合は成人女性よりも高いと報告されており[3]、思春期から早めに理解と対策を考えていくことが大切です。

どうしてPMSは起こるの?

PMSの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、最も有力とされるのが排卵後のホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の急激な変化です(図3)。生理周期の後半「黄体期」では、卵胞ホルモンのエストロゲンが減少し、黄体ホルモンのプロゲステロンが増加します。この急激な変化に脳の「視床下部」が反応し、自律神経や感情のバランスが乱れやすくなるのです。
特にプロゲステロンの受容体は感情を調整する大脳辺縁系に多く存在するため、分泌が増えると緊張、不安、気分変動などの精神症状が起こりやすいとされています。また、生活習慣やストレスも影響し、症状を悪化させることがあります。つまり、PMSは「ホルモンの変化」と「生活リズム」の両方が関わって生じる不調なのです。
PMSとうまく付き合うヒント、まずはセルフチェックをしてみよう!

まずは、自分がどの程度PMSの症状を感じているのかを把握することから始めてみましょう。
PMSの認知度は依然として低く、症状があっても自覚できずに苦痛や不安を抱えたまま過ごすケースも少なくありません。しかし、セルフチェックを行うことで自らの症状に気づきやすくなります[5]。
下の「PMSセルフチェックシート」に当てはまると思う番号に〇をつけ、合計点がいくつになるかを確認してみてください。
チェックシートをタップすると、画像が拡大表示されます。
合計22点以上ある場合、PMSの可能性があります。「不調を見える化」することで、セルフケアや周囲への相談にもつながります。
PMSと上手に向き合うには、「不調を記録して可視化すること」と「セルフケア」が大切です。
📅 自分のリズムを知ろう:スマホアプリや手帳に症状を記録し、周期のパターンを把握して「心の準備」をしておく。
🛁 セルフケアの工夫:
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控えたいこと:カフェインやアルコールなどの刺激物、甘いもの・塩分のとりすぎ、夜更かし、喫煙
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取り入れたいこと:バランスのよい食事、軽い有酸素運動、十分な睡眠、体を温めること。ビタミンB6やカルシウムを含む食品も効果的
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気分転換:音楽、散歩、アロマなど、自分がリラックスできる方法を見つけよう
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自分にあう方法を探す:ヨガ、ツボ押し、アロマテラピーなど
そして「無理をしない」ことも大切。つらいときは信頼できる人に「今日はちょっと調子が悪い」と伝えてみるだけで気持ちが軽くなります。
PMSが重いときは…

もしPMSの症状が特に心の面で強く出る場合、それは「PMDD(月経前不快気分障害)」の可能性があります。何もしたくない、泣いてしまう、自分を責めてしまう…そんな状態が続くときは、学校生活や人間関係に影響を与えることもあります。PMDDは「心の風邪」のようなもので、決して珍しいことではありません。一人で抱え込まず、婦人科など専門機関に相談してみましょう。早めの受診が安心につながります。
私たちの研究:アプリ開発中!

現在、私たちはPMS症状の記録とセルフケア支援を目的としたアプリを開発中です。このアプリを通じて、セルフケアへとつなげることも可能になります[6]。
毎日の記録を続けるのは大変ですが、アプリを使えば簡単で、グラフやカレンダー表示によって自分の体調の変化が一目でわかります。PMSだけでなく、月経全般に関する不調の把握やセルフケアにつなげることも可能です。完成したら、ぜひ多くの女子高校生や若い世代に使ってもらいたいと考えています。
“つらい”を軽くする第一歩

PMSを知ることは、「自分にやさしくなること」につながります。体と心のバランスは毎月変化するもの。不調を「我慢する」ではなく、「上手に付き合う」と考えるだけで、気持ちが少し軽くなるかもしれません。最近はフェムケア(女性の健康を支えるサービス)も広がりつつあります。PMSを正しく理解し、セルフケアや周囲への相談を取り入れながら、自分らしい毎日を過ごしていきましょう。
【参考文献】
[1]日本産婦人科学会編,2013,産婦人科用語集・用語解説集改定第3版,東京,日本産婦人科学会事務局.
[2]Takeda T, Koga S, Yaegashi N (2010): Prevalence of premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder in Japanese high school students, Arch Womens Ment Health 13(6),535-7.
[3]Tadakawa M, Takeda T, Monma Y, Koga S and Yaegashi N, 2016, The prevalence and risk factors of school absenteeism due to premenstrual disorders in Japanese high school students: a school-based cross-sectional study, Bio Psycho Social Medicine10:13.
[4]Victor FF, Souza AI, Barreiros CDT, et al. (2019): Quality of Life among University Students with Premenstrual Syndrome, Revista Brasileira de Ginecologia e Obstetricia 41(5),312-317.
[5]松浦美由, 成順月, 原ひろみ, 他(2022): 思春期女子の月経前症候群に関する教育プログラムの効果と今後の課題, 日本看護教育福祉学研究 5(1),10-19.
[6] 成順月, 松浦美由, 薬袋淳子, 他(2024): 月経前症候群のセルフマネジメントアプリケーションの開発とパイロット試験, Medical Science and Educational Research, 18, 47-53.
