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英語を読むとき、目はどこを見ている?

英語の文章を読んでいるとき、私たちの目は、ただ機械的に左から右へ流れるように動いているわけではありません。意味がすぐに理解できる部分では、視線はリズムよく前に進みますが、少し難しい単語や構文に出会うと、目の動きは途端に変わります。
たとえば、ある単語の上で長く止まったり、読み進んだあとに視線が戻ってきて、同じ場所を何度も見直したりします。こうした動きは、読んでいる本人が意識していなくても自然に起こるものです。
私はこのような「目の動き」を、アイトラッカーと呼ばれる視線計測装置を用いて記録しています。アイトラッカーを使うと、「どの単語をどれくらいの時間見ていたか」「どこで視線が戻ったか」といった細かな情報を客観的に捉えることができます。
アイトラッキングは、第二言語(英語など)の学習研究でも広く用いられており、語彙理解や文法処理、文章全体の理解といった場面で、学習者がどこに負荷を感じているのかを“見える形”にする方法として注目されています(Hu ほか, 2024)。
つまり、目の動きは単なる視線の移動ではなく、「今、頭の中で何が起きているのか」を映し出す重要な手がかりなのです。つまり、目の動きは「どこでつまずいたか」を教えてくれる大事な手がかりになるのです。
「分からない…」のとき、脳と気持ちはどう変わる?

英語が読みにくいと感じるとき、その原因は「単語が分からない」「文法が難しい」といった知識面だけとは限りません。たとえば、試験の時間制限に追われて焦っているときや、「間違えたらどうしよう」という不安が強いとき、普段なら理解できる内容でも急に読みづらくなることがあります。
こうした感情の影響は、気分の問題として片付けられがちですが、実際には注意や集中と深く結びついています。これまでの脳科学研究でも、感情が注意の向き方や情報処理の効率に影響を与えることが示されています(Dolcos ほか, 2020)。
不安や緊張が強いと、必要な情報に集中しづらくなり、結果として理解が浅くなってしまうのです。
そこで私は、目の動きに加えて、脳の血流の変化にも注目しています。脳のどの部分がどの程度活動しているかを調べることで、「つまずいた瞬間」に脳内で何が起きているのかを捉えようとしています。
視線データ(どこで止まったか、どこを読み返したか)と脳活動のデータを組み合わせることで、英語を読んでいる最中の認知的・感情的な変化を、より立体的に理解できるようになります。
研究で「読みにくい」を減らす方法を探る

この研究で目指しているのは、英語が得意な人だけでなく、苦手意識のある人が「読みやすくなる」ための支援です。たとえば、目の動きから“多くの人が止まりやすい場所”が分かれば、教材の作り方(語注の入れ方、文の区切り方、難しい部分の説明)を工夫できます。
さらに今後は、MRI(磁気共鳴画像法)を使って、読解中に脳のどの部分がどのように協力して働くのかも調べたいと考えています。目の動き(行動のデータ)とMRI(脳のデータ)を合わせることで、「どこでつまずくのか」だけでなく、「なぜつまずくのか」「どうすれば読みやすくなるのか」まで、より具体的に示せるようになるはずです。
おわりに― 英語の「つまずき」を、目と脳から見つめる研究 ―

これまで多くの学生と英語読解に向き合う中で、「ちゃんと勉強しているのに読めない」「頑張っているのに自信をなくしてしまう」姿を何度も見てきました。そのたびに、英語が読めない理由は能力や努力だけではなく、目の動きや脳の働き、そしてそのときの気持ちにもあるのではないかと感じるようになりました。
この研究は、そうした「見えにくい原因」を可視化し、英語に苦手意識をもつ人が少しでも楽に、前向きに読めるようになる手がかりを見つけたい、という思いから始まっています。
参考・引用元
Dolcos, F., Katsumi, Y., Weymar, M., Moore, M., Tsukiura, T., & Dolcos, S. (2020).
Neural correlates of emotion–attention interactions: From perception, learning, and memory to social cognition, individual differences, and training interventions.
Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 108, 559–601.https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2019.08.017
Hu, X., & Aryadoust, V. (2024).
A systematic review of eye-tracking technology in second language (L2) research.
Languages, 9 (4), Article 141.https://doi.org/10.3390/languages9040141