まずは、正しい知識を持って必要以上に怖がらないことが大切です。
この記事では、春に特に注意したい動植物と起きてしまったときの適切な対処、日頃からの予防対策について解説します。
目次
身近なこんな場面にも危険は潜む

植物性自然毒(植物がもともと持っている毒の成分)の食中毒は、以前は山菜摘みやハイキングなどで採ってきたものを口にすることで起きることが多かったのですが、最近は家庭内で栽培した覚えのない植物(庭に勝手に生えてきたものや過去の植栽の残りなど)を食べて起きることもあります。山菜や観賞用植物と見た目がよく似ている毒草を間違えて採り、それを食べて中毒になることも少なくありません。
新芽はどれもよく似ているため間違えてしまうことがあります。
ニラをスイセンと、オオバギボウシをバイケイソウと、ギョウジャニンニクをイヌサフランと間違えやすいので、とくに気を付ける必要があります。
こうした事故を予防するには、『素人判断で採らない、食べない、人にあげない』ようにして、有毒植物による食中毒を防ぎましょう。
また、動物も春になると行動も活発になります。山や海だけでなく、身近な場所にも有毒動物が潜んでいますので注意が必要です。ハチに刺されたり、ヘビに咬まれたりすることもあります。このような事故に遭わないよう予防する必要があります。
さらに、犬や猫などのペットが誤って有毒植物を食べたり、有毒動物に遭遇して事故に遭ったりすることもあります。
人だけでなく、大切なペットを守る意識も欠かせません。
どんな中毒事故が多いの?

厚労省のホームページの「有毒植物に要注意」に掲載されている統計資料には、2015年から2024年までの10年間に、有毒植物で発生した中毒事故は、全部で218件(患者数は726人、そのうち死亡数は18人)でありました。
春から夏にかけては、スイセン、イヌサフラン、グロリオサ、ジャガイモ、バイケイソウ、クワズイモ、トリカブト、チョウセンアサガオ、ユウガオ、スノーフレークなどによる事故が見られます。
一方、日本中毒情報センターの2024年受診報告には、ハチ類(17件)、ムカデ・ヤスデ(11件)、マムシ(6件)などによる問い合わせがありました。
春から夏にかけては、マムシ、ムカデ、ハチ類(スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチ)、セアカゴケグモ、チャドクガ、マダニ、ヒキガエル、カツオノエボシなどによる事故が見られます。
この中で、発生件数の多いもの、患者数の多いもの、死亡数の多いものを取り上げて以下に解説します。
気を付けるべき主な有毒植物
<スイセン>

撮影:森博美
発生件数も患者数も最も多い植物です。
⚫︎危険な部位
葉や花など植物全体に毒は含まれていますが、特に球根に多く含まれています。
⚫︎症状
食後30分以内に、吐き気、嘔吐、頭痛などが生じます。腹痛、下痢、よだれ、発汗、昏睡、低体温などが起きることもあります。
⚫︎予防対策
葉がニラやノビル、球根がタマネギに似ているので、誤食しないように気を付けてください。必ずニラ特有の匂いを確認し、確証がない場合は絶対に食べないでください。野生のニラの中にスイセンが混ざって生えていることがあるので気を付ける必要があります。スイセンはニラに比べ、葉の幅が広く厚い、草丈が高いなどの特徴もあります。
<イヌサフラン>

撮影:森博美
<グロリオサ>

撮影:森博美
死亡数が最も多い植物です。
⚫︎危険な部位
イヌサフランとグロリオサの植物全体には、同じ毒成分が含有されていますが、特に球根や根に多く含まれています。
⚫︎症状
口渇、激しい嘔吐、下痢(血便を含む)、腹痛、皮膚の知覚減退、呼吸困難、
チアノーゼ、重症化すると白血球減少、けいれん、多臓器不全、ショックを引き起こし、少量でも死に至ることがあります。
⚫︎予防対策
イヌサフランの葉がギョウジャニンニク、球根がジャガイモやタマネギに似ているので、誤食しないように気を付ける必要があります。ギョウジャニンニク特有の匂いを必ず確認し、確証が得られない場合は絶対に食べないことが大切です。また形状で見分ける方法としては、ギョウジャニンニクの芽は、葉が1~2枚ですが、イヌサフランの芽は、葉が多数重なり合っています。
一方、グロリオサの球根は、細長くヤマイモとよく似ているので、誤食しないように気を付ける必要があります。鑑別点としてはヤマイモには粘り気があることです。
<ジャガイモ>

撮影:森博美
集団で発生するため発生件数は少ないが患者数が最も多い植物です。
⚫︎危険な部位
芽や緑の皮の部分、未熟で小さなものには毒があります。毒成分は加熱しても分解しません。
⚫︎症状
吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、めまい、耳鳴り、重症化すると動悸、呼吸困難、けいれん、意識障害などを引き起こし、最悪の場合は死に至ることもあります。
⚫︎予防対策
芽は根元から除去し、緑色の皮は厚めにむきます。未熟で小さなものは食べるのを避けてください。苦み・えぐみを感じたらすぐに食べるのをやめてください。ジャガイモは日の当たらない冷暗所に保管してください。学校でジャガイモを栽培し、収穫して集団で食べる場合には、保管に気を付け、芽や緑の皮がある場合には、十分な除去に気をつけてください。
気を付けるべき主な有毒動物
<スズメバチ>

撮影:森博美
⚫︎特徴
この仲間は17種類で、どの種類であっても非常に攻撃的で凶暴、体が大きく、毒性も強力で刺されると重症化しやすいです。中でもオオスズメバチの毒は非常に強力で量も多いため、十分に注意する必要があります。近年、都市化に伴いキイロスズメバチが激増しているようです。4月頃から女王蜂が活動し始め、夏から秋にかけて巣が大きくなり攻撃性が増します。日本で最も死亡事故が多い野生生物です。
⚫︎症状
刺された患部が赤く腫れあがり、痛みやかゆみを伴いますが3日間程度で治ります。しかし、まれに生じる「アナフィラキシーショック」では、患部が腫れるだけでなく、毒の成分によって全身性のアレルギー反応が引き起こされることがあります。この時は全身が赤い(じんま疹)、呼吸困難、気分不快、冷汗、めまい、吐き気などの症状が現れます。2回目以降に刺されたときに起こりやすい(以前は軽症であっても,再刺傷で50〜60%が悪化する)とされていますが、体質、毒量によって左右するため、人によっては1回目のハチ刺傷でも、症状が出る場合があります。ただし、毒液による直接の中毒症状が出現することはまれであります。ハチに刺された後は一人にならず、1時間以内に全身症状が出るようであればアナフィラキシーを疑います。ハチ毒アレルギーの人では呼吸困難、意識障害、血圧低下などのショック症状が出現し,死に至ることもあります。どのハチに刺されてもアナフィラキシーショックになる可能性はありますが、特に、このスズメバチとアシナガバチは注意が必要です。
なお死亡例のほとんどは、アナフィラキシーショックによる血圧低下と上気道の浮腫による呼吸困難が原因です.ショック症状は顔を含む頭部や頸部を刺された場合に多く発現する傾向がみられます。
⚫︎予防対策
一番大事なのはハチを刺激しない(近くに寄ってきても、決して振り払おうとしないなど)、自宅に巣を作られてしまったら、すみやかに駆除することです。ハチの巣には近づかない、黒や濃い色のものを身に着けない(黒いスマホなども用心)、匂いの強いもの(香水、柔軟剤など)を身に着けないことです。ハチが攻撃するのは、止まっているより動いている、色が薄いものより濃いものであるが、白くても動いていたら刺される可能性があります。農作業時には、長袖、長ズボン、手袋などを着用し、肌の露出を避けることです。自動車の窓を開け放しにしない(車内で刺されることも多い)、洗濯物を取り入れるときはハチをまぎれ込ませないよう注意することです。アナフィラキシー予防のため、過去にひどくなったケースにはエピペンⓇ注を登録医師に処方してもらい携帯することが推奨されます。
<マムシ>

日本で年間約2,000~3,000人がマムシに咬まれており、そのうち死亡は年間約5~10名程度報告されています。
⚫︎特徴
胴は太く背に銭形斑紋をもち、攻撃性があります。
⚫︎症状
咬まれると、すぐに激しい痛みと腫れが生じ、多くは受傷部に2つの小さな牙痕がみられます。腫れは、しだいにからだの中心部に向かって広がり、ひどくなると、皮膚が暗紫赤色となり、まれに水疱ができてきます。1~3日後に腫れはピークを迎え、指や手をかまれた場合、腕全体から胸まで腫れることがあります。また全身症状としては吐き気・嘔吐、腹痛、下痢、血圧低下、しびれ、運動障害、めまい、チアノーゼ、呼吸不全、意識障害、急性腎不全などが現れます。さらに霧視、複視などの目の症状が生じることがあります。特に毒が直接血管に入った場合には、腫れや痛みが少なくても血小板が数時間で急激に減少し、全身性出血、急激な血圧低下によりショックが起きることがあります。
⚫︎予防対策
ヘビを見つけても捕まえようとしない、草むらなどは素足やサンダルで歩かない(長靴や厚手の長ズボン、厚手の手袋をはめる)、石や朽ち木の下、穴の中に手などを入れない、道を外れた藪の中に入らない、ヘビが死んでいるように見えても触らないでください。草むらに入ったときや農作業中に噛まれる被害が多く、サンダル履きでの外出は避けるのが無難です。
犬・猫も気を付ける中毒は?
チューリップ、スズラン、ツツジ、サツキ、ワラビ、スイセンなどの誤食、スズメバチやマムシなどの刺咬傷などに注意が必要です。
<チューリップ>

撮影:森博美
⚫︎危険な部位
植物全体、とくに球根は毒性が強いので要注意です。
⚫︎症状
嘔吐、下痢、大量のよだれ、血便、元気消失、皮膚炎、けいれん、呼吸困難などが現れ、腎不全を発症すると死亡率が高くなるため注意が必要です。
⚫︎気をつける場所
とくに球根の毒性は極めて高く大変危険なので、自宅の庭でチューリップを栽培している方は掘り起こして遊んで、誤食しないように気をつけてください。
もし愛犬・愛猫が危険な植物を食べてしまったら
中毒症状として多いのが、嘔吐、下痢、食欲不振、けいれん、皮膚炎などですが、それ以外にも普段と様子が違うと感じたら速やかに動物病院を受診してください。放置して悪化すると命に関わることもあります。できるだけ早めに受診することが、愛犬・愛猫の健康と命を守れるかどうかの鍵となります。また、スズランなどは花粉を舐めたり生け花の水を飲んだりするだけでも急性腎不全を引き起こす恐れがありますので、注意が必要です。
正しく知って、身近な自然を楽しんで
今回ご紹介したように、植物には注意が必要な一面もありますが、正しく知ることで安全に楽しむことができます。
私もカメラが趣味で、日頃から色んな身近な植物の観察や撮影も行っています。
今回の紹介した写真の多くは、実際に私自身が撮影したものです。
何気ない風景の中にも、さまざまな植物が息づいています。
ぜひ「見る・知る」ことを楽しみながら、春の自然をお楽しみください。
参考資料
1)厚労省ホームページ、有毒植物に要注意、https://www.mhlw.go.jp/content/001464746.pdf
2)日本中毒情報センター2024年受信報告、https://www.j-poison-ic.jp/jyushin/2024-2/
3)気をつけて!犬に危険な花と野草・散歩コースにある危険な春の植物を写真付きで解説、IDOG&ICAT
4)森 博美,山口 均(編): 5.自然毒,急性中毒ハンドファイル,医学書院,東京,2011,PP227-245.
5)森 博美,山崎 太(編著):自然毒,急性中毒情報ファイル第4版,廣川書店,東京,2008,PP645-698.