睡眠は単なる休息時間ではなく、体・心・脳を再生する最強のメンテナンス時間です。
大切なのは睡眠時間だけでなく“睡眠の質”とそれを高める「睡眠力」です。それは毎日の小さな習慣でいくらでも鍛えることができる力なのです。
本コラムでは、今日から始められる眠りの整え方をご紹介します。未来の自分のために、まずは今夜の眠りから整えてみませんか。
目次
若い世代こそ危ない「睡眠負債」

スマホ、動画視聴、SNS、ゲーム、深夜の仕事や勉強など、現代は常に光と情報に囲まれています。
気づけば日付を超え、朝は眠いまま学校や職場へ向かうことはありませんか?
この“少しの寝不足”の積み重ねが睡眠負債です。
若い世代は体力があり、多少の無理がきいてしまいます。しかし、脳と体は確実に影響を受けているのです。
・集中力の低下
・記憶力の低下
・イライラや気分の落ち込み
・判断ミスの増加
・太りやすくなる
・肌荒れ
これらはすべて、睡眠力低下のサインです。
睡眠負債とは毎日のわずかな寝不足が借金のように蓄積していく状態のことです。
怖いのは「自分では気づきにくい」ということ。
徹夜明けの判断力は、実は軽い酔っぱらい状態に近いとも言われていますし、6時間睡眠を14日続けると徹夜2日間と同じレベルに脳のパフォーマンスが低下することがわかっています。
また、睡眠不足はメンタルにも大きく影響します。睡眠が足りていないと、感情のコントロールが取りにくくなるばかりか、自己肯定感にも影響がでてきます。
こちらは文部科学省による小学生を対象にした調査結果で、適切な睡眠時間をとっている人ほど自己肯定感が高いということが研究で明らかになっており、大人でも同様の結果がみられることが分かっています。感情をつかさどる「扁桃体」の働きが過剰に反応して不安や抑うつ状態が生じやすくなります。
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あなたはいくつ当てはまる?睡眠負債のサイン
▢ 休日に平日より2時間以上長く寝てしまう
→体内リズムが乱れると、戻るのに3日ほどかかってしまいます。
▢ 電車の中や授業中、会議中など日中の強い眠気がある
→本来、朝から午前中は脳が覚醒しパフォーマンスが高いことが多いはず。
▢ 寝つきが良すぎる(布団に入って5分以内など)
→健康な場合10~15分かけて入眠します
まずは、自分の睡眠を振り返り意識することから始めましょう。
睡眠力を高める第1歩は、今の自分の眠りを知ることから始まります。
朝が変わる!正しい睡眠サイクル
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私たちは「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という2つの状態をひと晩に4~6回繰り返しながら、朝を迎えます。
ノンレム睡眠(Non–Rapid Eye Movement)
入眠してから最初の3時間ほどは、脳が深く休むノンレム睡眠の割合が多くなります。この時間帯は、成長ホルモンの分泌により疲労回復や免疫力の向上、体の成長や修復が活発に行われます。また、近年の研究でノンレム睡眠中も記憶の固定や強化に重要であることがわかってきました。特に入眠して最初の90分に深い眠りをとることが最も重要です。
- 高ストレス状態や体内時計の乱れなどから、深いノンレム睡眠がとれていないと「寝たのに疲れが取れない」状態になります。
レム睡眠(Rapid Eye Movement)
後半になるにつれて、体は休んでいる一方で脳が活発に働くレム睡眠の時間が増えていきます。レム睡眠では記憶の整理や不要な記憶の消去がおこなわれ、しっかりとることで学習した内容が定着し学習効果が高まります。また、感情の調整やストレスの緩和を担い心を安定させる働きをします。
- 睡眠時間が短すぎると、後半のレム睡眠が削られ「集中力や気分の安定」に影響します。
このように、睡眠中は一晩かけて異なる種類の休息をしながら、私たちの体・心・脳を整えるためのメンテナンスをしているのです。
光を味方にして体内時計をリセット

多くの人の体内時計は24時間よりやや長めの周期を示します。朝、起床後に光を浴びることで体内時計がリセットされ生体リズムが整います。そこから約14~16時間後に眠りのホルモン「メラトニン」が分泌され、夜に自然な眠気が訪れます。つまり、夜の睡眠の準備は朝から始まっているのです。ところが、寝る前にブルーライトなどの強い光を浴びるとメラトニンの分泌が抑制され、寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりします。朝は光をしっかり浴び、夜はパソコンやスマホの使用は就寝1時間前までにして、できるだけ暗くすることが、良い眠りへの大切なポイントです。夜の室内照明を電球色や間接照明にするのもおすすめです。
◆体内時計を整えるポイント
・毎日同じ時間に起きる
・朝の光を浴びる
・朝食をとる
・夜は強い光を避ける
・休日は平日の2時間以上寝すぎない
◆メラトニンの材料となるトリプトファン
トリプトファンがセロトニンという神経伝達物質をつくり、セロトニンは夜になるとメラトニンに変化します。体内で合成できない必須アミノ酸の一つであるトリプトファンは、食事から取り入れましょう。
大豆製品、乳製品、肉・魚類、ごま・ナッツ類、卵、バナナ等を朝食に取り入れると効果的です。

「放熱」は眠りのスイッチ

「布団に入ってもなかなか眠れない」そんな経験をしたことはありませんか?
実は体の中ではある変化が起きてから眠りに入ります。そのカギが「放熱」です。
眠るときに大切なのは“深部体温”がゆるやかに下がること。
そのために私たちの体は、手足の末梢(まっしょう)血管を広げて熱を外へ逃がします。
「眠くなると手足がポカポカする」それは、体が眠る準備をしているサインなのです。
深部体温が下がり副交感神経(リラックスモード)が優位になることで心拍や呼吸がゆっくりになり、体が休息モードへ切り替わります。
さらに、眠気を促すホルモン「メラトニン」も分泌されやすくなります。
「寝る90分前の入浴がよい」と言われるのはなぜでしょうか。
お風呂に入ると一時的に体温が上がります。
その後、体が熱を逃がそうとして放熱が起こり、深部体温が下がります。
この“下がるタイミング”こそが、スムーズな寝つきのタイミングなのです。
38~40度のぬるめのお湯にゆっくりつかることで、自然な放熱をサポートできます。
就寝直前に熱い湯に入ると交感神経(緊張モード)が優位になってしまうため、その場合は少し早い時間に入ると良いでしょう。
温める×緩める=快眠の法則

「温める」「心と体を緩める」ことは、眠れるカラダの基本となります。
入眠前は血流を促し、心身がリラックス状態になることが快眠のポイントです。
“眠れるカラダづくり”については、またの機会に。
手足が温かくなり、体温がゆるやかに下がるとき、体は「もう休んでいいよ」と知らせてくれています。
今夜はぜひ、自分の体が発するそのサインに耳を傾けてみてください。
忙しい毎日だからこそ、眠りを後回しにしない選択を。
今日からできる小さな習慣が、10年後の健康を守ります。
参考・引用元
Kahn et al. (2013), Journal of Youth and Adolescence
Ouyang et al. (2020), Journal of Health Psychology
Science.2019.365(6459);1308-1313
厚生労働省:健康日本21アクション支援システム