本記事では、ストレスの感じ方や、ストレスとうまく付き合うための「コーピング(ストレスへの対処法)」について解説し、「今、この瞬間の自分の状態に気づく」というマインドフルネスの考え方を紹介します。
さらに、看護職や看護学生を対象とした自身の研究を交えながら、日常生活の中で無理なくできるストレスとの付き合い方について考えます。
目次
ストレスは悪いもの?心と体に起こる自然な反応

「ストレス」と聞くと、悪いものという印象を持つ方が多いかもしれません。しかし、ストレスは私たちが新しい環境や出来事に適応しようとするときに生じる自然な反応です。
ストレスをなくすことは難しくても、付き合い方を変えることはできます。
では、私たちはどのようにストレスと向き合えばよいのでしょうか。
「ストレス」という言葉には、もともと「圧力」や「負荷」という意味があります。
私たちの心や体に何らかの変化や負荷が加わると、それに適応しようとしてストレス反応が起こります。私たちは、嫌な出来事だけでなく、楽しみにしていた旅行や進学、就職などでも疲れを感じることがあります。
それは、新しい環境や役割に適応しようと心と体が働くためです。つまり、ストレスは悪いものではなく、「変化があったこと」を知らせるサインでもあるのです。
同じ出来事でも、人によってストレスの感じ方が違うのは、その出来事をどのように受け止めるかが異なるためです。
例えば、人前で発表をするとき、「失敗したらどうしよう」と考える人もいれば、「自分の力を発揮する機会だ」と前向きに捉える人もいます。つまり、出来事そのものではなく、その出来事をどのように受け止めるか(認知的評価)が、感じるストレスの大きさに影響しているのです。¹
そのため、ストレスを完全になくすことは難しくても、ストレスとの付き合い方を変えることはできます。ストレスを感じると、肩に力が入る、呼吸が浅くなる、心臓がドキドキする、お腹が痛くなるなど、心だけでなく体にもさまざまな変化が現れます。しかし、忙しい毎日を過ごしていると、その変化に気づかないまま過ごしてしまうことも少なくありません。
こうした心や体の変化に気づくことは、自分に合ったストレスとの付き合い方を考える第一歩になります。
「今、この瞬間」に気づく。マインドフルネスという考え方

こうした心や体の変化に気づくことは、自分に合ったストレスとの付き合い方を考える第一歩になります。
「マインドフルネス」という言葉を耳にしたことはありますか。
近年、心を整える方法として注目されています。マインドフルネスは「今、この瞬間の経験に注意を向け、その経験に対して受容的な態度で向き合う心理的過程」と説明されています。²
マインドフルネスは注目されていますが、十分な効果を得るためには継続的なトレーニングが必要とされます。
ただ、マインドフルネスは、特別なトレーニングをすることだけを意味するものではありません。
「今、この瞬間の自分の状態に気づく」という考え方そのものが、ストレスと付き合うための第一歩になります。
私たちの心は、過去の失敗を思い返したり、まだ起こっていない未来を心配したりしがちです。その結果、実際には何も起きていなくても、不安や緊張が大きくなることがあります。
マインドフルネスは、そのような心の動きに気づき、「今、この瞬間」に意識を戻す考え方です。「今」の自分の心や体の状態に気づき、それをありのまま受け止める心の持ち方です。³
自分に合ったストレス対処法を見つける「コーピング」

ストレスに対処する方法は「コーピング」と呼ばれます。
コーピングには、問題を解決しようと行動する、人に相談する、気分転換をするなど、さまざまな方法があります。大切なのは、「どの方法が一番良いか」ではなく、そのときの状況や自分に合った方法を選ぶことです。
そのためには、まず自分がストレスを感じていることや、心や体にどのような変化が起きているのかに気づくことが大切です。¹
マインドフルネスは、その気づきを促し、自分に合ったコーピングを選ぶための一つの考え方として活用されています。³
看護師・看護学生のストレスに向き合う、研究からの挑戦

私はアメリカでNICU(新生児集中治療室)で働く看護師のストレスに関する研究を行ったことをきっかけに、「ストレスとうまく付き合うためには何が必要なのか」という問いを持ち続けてきました。⁴
その後、看護師を対象に、忙しい日常の中でも簡単に、短時間で取り組めることを大切にし、マインドフルネスのコンセプトを取り入れたWebアプリケーションを開発しました。⁵
このアプリは、1回5分程度の短い動画を通して、マインドフルネスの考え方を取り入れたストレス対処法を学び、実践できるようにしたものです。
自分の心や体の状態に気づき、自分に合ったストレスへの対処法を見つけるきっかけとなることを目指しました。
現在は、こうした研究をさらに発展させ、看護学生を対象にした、より手軽に継続して利用できるコーピング支援ツールの開発に取り組んでいます。
ストレスへの気づきや、日常生活の中で実践できるさまざまなコーピングについて、普段利用しているSNSを使って短い動画などのコンテンツとして定期的に届けることで、日常の中で自然に目にし、自分に合った方法を試すきっかけになるような仕組みを考えています。
いずれも、ストレスをなくすことを目指すのではなく、自分の状態に気づき、その時々の自分に合った対処法を選べるようになることを大切にしています。
今日からできる!「今」に意識を向ける小さな習慣

マインドフルネスは特別な場所や長い時間を必要としません。
例えば、深呼吸をしながら呼吸に意識を向ける、コーヒーやお茶の香りをゆっくり味わう、食事の味や食感を丁寧に感じるなど、ほんの数分でも「今、この瞬間」に意識を向ける時間を持つことができます。また、自分の呼吸や肩の力み、胸の鼓動、手足の感覚などに意識を向けることで、心だけでなく体の状態にも気づくことができます。
雑念が浮かんでも、「考えごとをしていたな」と気づき、再び呼吸や今の感覚に意識を戻すだけで十分です。
頑張りすぎない、自分らしいストレスとの付き合い方

ストレスの多い現代社会では、「頑張ること」に意識が向きがちです。
しかし、ときには立ち止まり、「今の自分はどんな気持ちだろう」「体はどんな状態だろう」と、自分の心と体に目を向ける時間を持つことも大切です。
毎日を完璧に過ごす必要はありません。忙しい日々の中でも、ときどき「今、この瞬間」の自分に目を向ける時間を持つことが、心と体をいたわり、自分らしいストレスとの付き合い方を見つけるきっかけになるかもしれません。
参考・引用元
1. Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, appraisal, and coping. New York, NY: Springer.
2. Bishop, S. R., Lau, M., Shapiro, S., Carlson, L., Anderson, N. D., Carmody, J., … Devins, G. (2004). Mindfulness: A proposed operational definition. Clinical Psychology: Science and Practice, 11(3), 230–241. https://doi.org/10.1093/clipsy.bph077
3. Kabat-Zinn, J. (2003). Mindfulness-based interventions in context: Past, present, and future. Clinical Psychology: Science and Practice, 10(2), 144–156. https://doi.org/10.1093/clipsy.bpg016
4. Sano, R., Schiffman, R. F., Shoji, K., & Sawin, K. J. (2018). Negative consequences of providing nursing care in the neonatal intensive care unit. Nursing Outlook, 66(6), 576–585. https://doi.org/10.1016/j.outlook.2018.08.004
5. 佐野 理湖,熊澤 恵美,杉江 美樹,若林 愛弥.(2023).看護師のストレス解消を目指したマインドフルネスWebアプリケーションに関するニーズの把握.日本看護科学会誌,43,344–352.https://doi.org/10.5630/jans.43.344