研究

冷え症の謎に迫る―医療技術で見えてきた体の特徴

冷え症の謎に迫る―医療技術で見えてきた体の特徴
「夏でも冷房がつらい」「手足が冷たくてなかなか眠れない」。
このような悩みを抱える人は少なくありません[1]。日本では「冷え症」と呼ばれていますが、病院で診断される病名ではなく、その実態にはまだ不明な点が多く残されています。
本記事では、私が取り組んでいる冷え症の客観的評価に関する研究を通して、冷え症の人の体にどのような特徴があるのかを紹介します。

目次

温度を測ると見えてきた冷え症の特徴

 

冷え症の人の体では、実際にどのような変化が起きているのでしょうか。私たちは、冷え症を自覚している大学生と、自覚していない大学生を対象に比較研究を行いました。

 

まず、サーモグラフィという装置を用いて体表面の温度を測定しました。サーモグラフィは、物体から放出される赤外線を利用して温度を色で表示するカメラです。テレビ番組などで見たことがある方もいるかもしれません。

 

結果は、耳の奥で測定した深部体温には大きな違いがありませんでした。一方で、冷え症を自覚している学生では、手のひらや足の裏、手足の指先の温度が低い傾向がみられました。また、深部体温と足先の温度との差が10℃以上ある学生も多くみられました。

 

冷え症の人は体全体の温度が低いわけではなく、手足など末端部分の温度が低くなっている可能性が示されました。

「冷え症は気のせいではなく、実際に体の状態として捉えられる可能性がある」ことを示す興味深い結果といえます。

 

 

血管は冷え症と関係している?

 

体内では、血液が熱を全身へ運ぶ働きをしています。例えば寒い場所に行くと、体は重要な臓器の温度を保とうとして手足の血管を細くします。その結果、指先や足先が冷たくなります。

そこで、血管と冷え症に関係があるのではないかと考えました。

 

血管の状態を評価するために用いたのが、CAVIという血管機能検査です。腕と足に血圧計のようなカフを巻き、心臓から足首までの動脈の硬さを測定します[2]。健康診断や人間ドックで受けたことがある方もいるかもしれません。一般的には動脈硬化の評価に用いられる検査ですが、この検査を冷え症の研究に応用しました。

 

すると、男性では冷え症を自覚する人の方が血管の硬さを示す値が高い傾向が見られました。今回の対象は若い大学生であり、動脈硬化のような病的変化が起きているわけではありません。しかし、血管の状態と冷え症との間に何らかの関係がある可能性が示されました。

 

興味深いことに、この傾向は女性では明確にはみられませんでした。一般的に冷え症は女性に多いといわれていますが、その仕組みは男女で異なる可能性も考えられます。

 

 

超音波でわかる筋肉の働き

 

さらに、超音波を用いて筋肉の硬さを調べる研究も行いました。

近年の超音波診断装置には、「組織の弾性(硬さ)」を画像化する“エラストグラフィ”という機能があります。乳がんや肝疾患の検査にも利用されている技術ですが、筋肉の状態を評価することもできます[3]。

 

今回注目したのは、ふくらはぎの筋肉です。

ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれ、歩いたり足首を動かしたりすると筋肉が収縮し、足にたまった血液を心臓へ送り返すポンプのような働きをしているためです。もしこの働きに特徴があれば、冷え症との関係が見えてくるかもしれません。

 

冷え症を自覚している人では、筋肉を収縮させたときと力を抜いたときの硬さの変化が大きい傾向が見られました。つまり、冷え症の人の筋肉が常に硬いわけではなく、筋肉が働いたときの変化の仕方に特徴がみられたのです。この結果は、筋肉の働きや血液を送り出す仕組みが、冷え症と関係している可能性を示唆しています[4]。

 

超音波検査というと、お腹の検査や赤ちゃんを観察する検査を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、このように筋肉の状態を調べることもできます。

 

また、超音波検査は放射線を使用しないため被ばくの心配がなく、体に負担をかけずに検査を行うことができます。病気の診断だけでなく、体の仕組みを解き明かす研究にも活用できることは、超音波検査の大きな魅力の一つです。

 

 

まだ解明されていない冷え症の不思議

 

冷え症は命に関わる病気ではありません。しかし、睡眠の質や日常生活の快適さに大きな影響を与えます。「なぜ自分だけこんなに冷えるのだろう」そうした悩みを抱えている人は少なくありません。

 

人の体は非常に複雑で、血流、自律神経、筋肉、体格、生活習慣など、さまざまな要因が関係しています。そのため、身近な悩みである冷え症も、科学の視点で見てみると、まだまだ解明されていない不思議がたくさん隠されています。しかし、サーモグラフィ、CAVI、超音波エラストグラフィといった医療技術を活用することで、これまで見えなかった体の特徴が少しずつ明らかになってきています。

 

これからも研究を通して、冷え症の人の体で何が起こっているのかを明らかにし、将来的には冷え症に悩む人々の理解や支援につながる知見を発信していきたいと考えています。

 

 

参考・引用元

[1]渡邊知佳子.成熟期女性の冷え症の実態―体温、冷え症の自覚、予防対策の視点からの分析―.日本母子看護学会誌. 10,11-21,2017.
[2]島倉 淳泰、 高田 正信:血管機能検査―CAVI、PWV、ABI.日本内科学会雑誌、102(2)335-343、2013.
[3]山川誠:せん断波伝搬による超音波エラストグラフィの原理.MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY、32(2)2014.
[4]Akiko Ihori、Yuna Yamada、 Takahiro Yoshida: Physiological Characteristics and Subjective Awareness of Cold Sensitivity in Young Adults. IEEJ Transactions on Electronics、 Information and Systems.146(5).418-422、2026.

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この記事を書いた人

  • 井堀 亜希子
    井堀 亜希子 いほり あきこ
    所属:
    放射線技術学科
    学位:
    博士(医療技術学)
    専門分野:
    超音波検査学、画像工学、放射線科学

    診療放射線技師としての経験を活かし、医用画像から得られる情報を新たな視点で活用する研究を行っています。超音波や画像解析を用いて、病気の診断だけでなく健康状態の評価にも役立つ新しい活用法を探究しています。身近な疑問を医用画像によって科学的に明らかにし、その成果を診療や健康管理に還元できるよう研究を進めています。

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