研究

ブルブルするだけで柔らかく!? ― 振動が体に与える意外な効果

ブルブルするだけで柔らかく!? ― 振動が体に与える意外な効果
スポーツをしている人なら、ストレッチやマッサージで体をほぐす経験はあるはず。でも、実は“ブルブル”と振動をあてるだけで体が柔らかくなる効果があることをご存じですか? 研究の現場では、この振動刺激効果に注目が集まっています。今回は、そんなちょっと不思議で面白い「振動」の力をご紹介します。

目次

ストレッチだけじゃない!? 新しいコンディショニングのカタチ

ストレッチだけじゃない!? 新しいコンディショニングのカタチ

スポーツのパフォーマンスを上げたり、ケガを防ぐために「柔軟性を高めること」は欠かせません。多くの人がまず思い浮かべるのはストレッチやマッサージですよね。
でも実は、最近の研究では「振動」を利用したアプローチが注目されています。トレーニング器具の上でブルブル震えたり、特定の筋肉に直接振動を与えたり――そんな方法で体の柔らかさがすぐに変わることがあるのです。

 

 

ブルブルすると何が起こるの?

ブルブルすると何が起こるの?

振動を使った方法には大きく分けて2つのタイプがあります。
・全身振動(Whole Body Vibration:WBV)
振動する台の上に立ったり座ったりして、体全体にブルブル刺激を伝える方法。スポーツ選手やスポーツジムやリハビリ施設で導入されていて、筋力アップや血流改善、柔軟性の向上に役立つと報告されています[1]。
・局所振動(Local Vibration:LV)
ふくらはぎや太ももなど特定の部位に直接ブルブル刺激を与える方法。直接的に刺激が伝わるので、筋肉の柔らかさや関節の動きがすぐによくなるケースもあります。[2]最近では「マッサージガン」と呼ばれる器具が一般にも広まり、スポーツをしていない人でも「筋肉痛を早く楽にしたい」「座りっぱなしで固まった肩をほぐしたい」といった日常的なケアにも役立っています。

 

 

どのくらいで効果が出るの?

どのくらいで効果が出るの?

驚くべきことに、この効果は長時間続けなくても現れます。研究では、数十秒から数分間の振動で柔軟性や血流改善が見られると報告されています。たとえば、1分程度ふくらはぎに局所振動を与えるだけでも柔軟性が改善したという報告もあります。ただし、あくまで短期的な効果ですので柔軟性などを向上させるには継続も必要です。

 

 

なぜブルブルで体が柔らかくなるの?

なぜブルブルで体が柔らかくなるの?

魔法のように思える効果にも、実は体の仕組みに基づいたいくつかの理由があります。
・神経を通じて筋肉がゆるんだり痛みが軽減される
振動によって、神経を介して筋肉の緊張が弱まりることや痛みの感じ方が弱まることで柔軟性や動かしやすさが増すと言われています[3、4]。
・血流や温度が上がる
振動によって筋肉の中の血管が広がり、血流がよくなるだけではなく、細かい筋肉の収縮と合わさり筋肉の温度も上がります。その結果、疲労物質が流れやすくなったり、筋肉が伸びやすくなることで疲労回復や柔軟性の向上すると言われています[5]。

 

 

振動とスポーツ、意外な関わり

振動とスポーツ、意外な関わり

「振動」と聞くと、健康器具のイメージを持つ人も多いかもしれません。でも、実際にはトップアスリートのトレーニングや、ケガを防ぐリハビリの現場でも活躍しています。[1, 6, 7]
例えば、サッカーや陸上の選手にとって“瞬時に体を柔らかくできる”というのは大きな武器。ウォーミングアップで振動を使うと、関節の動きが広がり、よりスムーズに走ったり跳んだりできる可能性があるのです。[8]
さらに、日常生活でも応用の余地があります。部活動で頑張る中高生や、趣味でランニングを続ける社会人、毎日のウォーキングを続ける高齢者にとっても、振動がケガの予防や疲労回復に役立つかもしれません。運動が好きな人にとっては、新しいセルフケアの選択肢となるでしょう。[9]

 

 

ブルブルの未来

ブルブルの未来

ストレッチやマッサージに加えて、「振動」という選択肢がこれからのコンディショニングを変えるかもしれません。しかも効果が“すぐに出る”というのが最大の魅力。
ブルブル震えるだけで体が柔らかくなる――。
研究が明らかにしたこの意外な事実は、スポーツや医療だけでなく、私たちの毎日の生活をもっと快適にしてくれる可能性を秘めています。

 

 

【参考文献】

[1] Bonanni R et al. Whole Body Vibration: A Valid Alternative Strategy to Exercise?. J Funct Morphol Kinesiol. 2022. 7(4):99. doi: 10.3390/jfmk7040099.
[2]Matsuoka R et al. Immediate effects of localized vibration on flexibility: A randomized crossover trial.  J Bodyw Mov Ther. 2025. 44:385-392.
[3] Kurt C. Alternative to traditional stretching methods for flexibility enhancement in well-trained combat athletes: local vibration versus whole-body vibration. Biol Sport. 2015. 32(3):225-33. doi: 10.5604/20831862.1150305.
[4] Gerodimos V et al. The acute effects of different whole-body vibration amplitudes and frequencies on flexibility and vertical jumping performance. J Sci Med Sport. 2010. 13(4):438-443. doi: 10.1016/j.jsams.2009.09.001.
[5] Lundeberg T et al. Pain alleviation by vibratory stimulation. Pain. 1984. 20(1):25–44. doi: 10.1016/0304-3959(84)90808-X.
[6] Ferreira RM et al. The Effects of Massage Guns on Performance and Recovery: A Systematic Review. J Funct Morphol Kinesiol. 2023 . 8(3):138. doi: 10.3390/jfmk8030138.
[7] Glattke KE et al.  Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Recovery and Rehabilitation: A Systematic Review. J Bone Joint Surg Am. 2022. 104(8):739-754. doi: 10.2106/JBJS.21.00688.
[8] Manzi V et al. Effects of three different stretching protocols on hamstring muscle flexibility in professional soccer players: a randomized study. J Sports Med Phys Fitness. 2020. 60(7):999-1004. doi: 10.23736/S0022-4707.20.10562-0.
[9] Gonçalves de Oliveira R et al. Impacts of Whole-Body Vibration on Muscle Strength, Power, and Endurance in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2023.12(13):4467. doi: 10.3390/jcm12134467.

 

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この記事を書いた人

  • 松岡 涼太
    松岡 涼太 まつおか りょうた
    所属:
    臨床検査学科
    学位:
    修士(保健医療学)
    専門分野:
    超音波検査学、サルコペニア、フレイル

    私は超音波検査を用いた研究やフレイルに関する研究を通じて健康増進や予防医学の発展に寄与できるよう取り組んでいます。研究成果を臨床現場や地域社会に還元し、健康で活力ある生活を支える一助となれるよう、今後も取り組みを続けていきます。

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