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予防医学の原点は「治未病」(ちみびょう)~薬膳の話から~

予防医学の原点は「治未病」(ちみびょう)~薬膳の話から~
「人生100年時代」を見据え、健康意識の高い人は年々増加しています。将来の医療費を抑え、長く人生を楽しむために、食事や運動、医療のメンタルなど様々なスタンスの中に、予防医学の重要性が注目されています。
本記事では、その予防医学の原点である「治未病」と、健康づくりに役立つ薬膳について紹介します。

目次

「治未病」って何?

 

「治未病」とは、「病気になってから治す」のではなく、「病気になる前に心身のバランスを整え、健康を保つ」という考え方です。

これは中国最古の漢方医書『黄帝内経(こうていだいけい)』の「巳病(いびょう)ヲ治セズシテ、未病ヲ治ス」の由来で、『養生訓(ようじょうくん)』にも全編を通じて「病気予防のための生活習慣(養生法)」が述べられており、「未病を治す」とする表現があります。
近年の「治未病」とはある特定の疾患を予防するのではなく、「健康異常・病気未満」の状態から心身とも健康にすることであり、身体面・精神面・社会面を含めた総合的な健康の実現を目標とします。
また、「平成9年版厚生労働白書・第1部・第2章・生活習慣病」にも、「未病の考え方によれば、病気の発症をその予兆によって知り予防するとともに、いったん発病した場合であっても重篤にならないよう早期に適切に処置することが肝要であり、これによって疾病のほかの臓器への拡散・転移及び疾病の悪循環の防止が期待できる」と述べられています。

 

 

治療と「治未病」と予防の違い

 

治療は病気になってからの回復を指しますが、予防は健康な時から、ある特定の病気の発症を防ぐことや病気の再発を防ぐことの意味で使われます。従って、「治未病」は未病の状態からの健康獲得を目指す意味になります。いずれも。最終目的は健康を獲得することですが、出発点が違うわけです。

これらの中で、治療は全面的に医師に依存しますが、治未病と予防は自分の判断で自分自身が行うものです。

 

 

食医とは?

『養生訓』では適切な食事を取り、健康に役立たせるために「食」について専門的な知識を持つ、「食医」を紹介しています。卷第7と卷第8に「老人では薬物療法よりも食事療法を優先するべきである」と食事療法の重要性が述べられておりますが、もちろん老人に限らず、成人や小児にも当てはまります。

食医という言葉は約2500年前に中国の儒教経典の一つである『周礼』に記述があり、日常の食事を管理し、さらに病気になった時は健康へ導く食事の専門医として、「疾医(内科医)」、「瘍医(外科医)」、「獣医」と並んで記述されています。韓国の人気ドラマ『チャングムの誓い』の主人公のチャングムも王様の健康を支える食医として登場しています。

 

 

食事療法(薬膳)という考え方

 

薬膳という名称は約2000年前の『後漢書・列女伝』の第74に登場し、庶民の間までにも食物の性・味と健康の関連性という意識が広まったことを意味しています。同時代に「薬食同源(やくしょくどうげん)」というのは、中国最古の薬物学書の『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』に食材(食)と薬(生薬)の概念が分化しつつも、同源であるという考えが定着し始めたとも言われています。

本書に記載される365種の薬物のうち、上品(上薬)は、無毒で生命力を養う「不老長寿の薬(養命薬)」として分類された120種類の生薬群であり、長期服用が可能で、体を軽くし元気を補う効果があるとされています。中品(中薬)120種類の生薬群は体力を養う(養性薬)として使い方次第では毒にもなり、病気の予防や虚弱体質の改善に用います。下品(下薬)125種類の生薬群は病気を治す(治病薬)として毒性が強く、病気の治療に特化しているため長期服用は避けるべきとされます。

 

 

未病のサインをチェックしてみよう

実際に治未病を行う時、問題となるのは未病の状態を知ること、すなわち未病診断です。『養生訓』では具体的な未病の基準には触れていませんが、「生を養ふ道は、元気を保つを本とす(卷第1)」とあり、健康は元気という主観的なものが判断基準でした。確かに、先ずは元気かどうかの主観が大切です。

 

チェックポイントは以下の項目になります。

▢ 疲れやすさ、疲れの取れにくさ

▢ 風邪のひきやすさ

▢ 傷の治りにくさ

▢ 体のだるさ

▢ お腹の張り具合

▢ 胃腸の調子

▢ 肩こり

▢ 腰や足の痛み

▢ めまい

▢ 階段の上り下りでの息切れ

 

こうした症状は、体からの小さなサインかも知れません。

また、血液や尿などの健康診断結果の検査値が参考になります。できれば半年か1年に1回くらい、定期的にチェックすることが理想です。

 

 

漢方では体質を4つのタイプに分ける

よく薬膳を利用する漢方的体質4タイプ(証)を紹介します。

 

気虚(ききょ)タイプ:共通症状は息切れ・脱力感・疲れやすい・風邪を引きやすい・舌は胖大で淡白・脈は細弱である。肺気虚は+呼吸が浅い・咳または喘息・喀痰・咳無力が現れる。心気虚は+動悸・不安・胸が苦しい・脈は結代(不整脈)が現れる。脾気虚は+食欲不振・消化不良・腹が脹る・弛緩性便秘・便溏(泥状便)が現れる。腎気虚は+めまい・耳鳴り・難聴・腰や膝がだるく力がない・尿の余瀝或は失禁・排尿困難・多尿・性機能減退などの症状が現れる。

血虚(けっきょ)タイプ:基本症状は顔色が萎黄・皮膚につやがない・頭がふらつく・目がかすむ・唇や爪や舌質は淡白・脈は細である。心血虚は+動悸・不安感・多夢・健忘が現れる。肝血虚は+目の乾燥感と疲れる・手足のしびれ・筋肉にけいれん・月経の遅れと過少が現れる。

陽虚(ようきょ)タイプ:気虚の進行であり、体を温める力が足りていないので、畏寒(寒さに弱い)・腹部、腰部と関節などが冷えて痛む・不消化の下痢・尿量過多・淡胖舌・沈細脈が現れる。

陰虚(いんきょ)タイプ:血虚の進行であり、体内をめぐる「津液」が足りていなく、体に潤いがない状態で、のぼせ・ほてり・五心煩熱(自覚症状)・寝汗・口や咽の渇き・皮膚の乾燥感・便秘傾向が現れる。

 

 

 

薬膳の基本「五味」と「五色」

 

薬膳の基本は五臓に合わせる食材の「五味」と「五色」であり、そして食材がもたらす作用にかかわる「五性」があります。
【五味】                        【五色】
酸味…食材例:梅…肝を養う                 青入肝
苦味…食材例:苦瓜…心を養う                                   赤入心
甘味…食材例:山芋…脾(ひ)を養う             黄入脾
辛味…食材例:生姜…肺を養う                白入肺
鹹(かん)味(塩辛味)…食材例:昆布…腎を養う       黒入腎
【五性】
熱…陽性…体を温める…食材例:唐辛子、シナモン、こしょう、羊肉
温…陽性…体を穏やかに温める…食材例:鹿肉、海老、大蒜、鶏肉、韮
平…陰性と陽性の間…温めも冷やしもしない…食材例:穀類、豚肉、山芋、白菜、大豆
涼…陰性…体を穏やかに冷やす…食材例:トマト、蓮根、冬瓜、西瓜、セロリ
寒…陰性…体を冷やす…食材例:苦瓜、レタス、昆布、牡蠣、柿、キウイ

 

 

毎日の食事から始める健康づくり

薬膳の基本は、今のあなたの体質や体調、季節に合わせて食材を選ぶことです。

特別な生薬を使わなくても、身近な野菜や肉類を組み合わせることで、心身のバランスを内側から整え、不調を防ぐことができます。

もし特別な生薬を取り入れた本格的な薬膳に興味がある人は、まず漢方医学の基本的な考え方を知り、そのうえで実践してみるのもよいでしょう。

 

「病気になってから治す」のではなく、「病気になる前から健康を守る」。

そんな「治未病」の考え方は、人生100年時代を健康に過ごすための大切なヒントになるかもしれません。

 

参考・引用元

1)厚労省ホームページ、厚生労働省:平成19年版厚生労働白書(本文)
2) 『黄帝内経』 『神農本草経』
3) 『養生訓』貝原益軒
4) 『養生訓』の進化論 永井博弌

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この記事を書いた人

  • 高鑫坤
    高鑫坤 こう ちんしん
    所属:
    薬学部 薬学科
    学位:
    准教授
    専門分野:
    医療系薬学 言語学 生体生命情報学 応用健康科学

    漢方の臨床(30年間)と漢方教育(20年)の経歴があります。また、漢方方剤の抗アレルギー疾患モデルに及ぼす影響に関する研究(5年間)を従事しました。現在、漢方を使って、各々難治性疾患・がん治療の研究に尽力しています。

    教員詳細