雑学

Speak Up!わからないと言える力

Speak Up!わからないと言える力
看護技術は、決められた手順を覚えるだけではありません。
患者さんが安心して過ごせるように、安全や心地よさを考えながら行う大切な援助です。
その中でも、患者さんの命や健康を守る「安全」は特に重要です。医療安全の考え方、「わからない」「確認したい」と声に出すことの大切さを、看護技術教育の視点から紹介します。

目次

病院で何度も名前を聞かれるのはなぜ?

病院で何度も名前を聞かれるのはなぜ

 

病院を受診したとき、「お名前を教えてください」「生年月日を教えてください」と何度も聞かれた経験はありませんか。

受付で答えたのに、診察室でも聞かれ、採血やレントゲンの前にも確認されることがあります。「さっきも言ったのに?もうわかってるはずなのに?どうして何度も聞くの?」って思いますよね。

実はこれ、医療の世界でとても大切な「医療安全」の取り組みの一つです。

病院には多くの患者さんがいます。同じ名字の人もいます。もし患者さんを取り違えてしまうと、別の人の検査を受けたり、間違った薬が投与されたりする危険があります。

そのため、医療従事者は「覚えているから大丈夫」「分かっているはず」と思い込まず、その都度本人確認を行います。忘れっぽいから、ではありませんよ。

 

 

 

スイスチーズが医療安全を守る?

スイスチーズが医療安全を守る?

 

医療安全には、「人は誰でもミスをする」という考え方があります。

優秀な医師や看護師でも、人間である以上うっかり間違える可能性はあります。そこで重要なのは、「ミスが起きても事故につながらない仕組みを作る」ことです。

これを説明する考え方として有名なのが「スイスチーズモデル」です。トムとジェリーにでてくる穴のあいたチーズ、あれです。イギリスのジェームズ・リーズンの理論です。

スイスチーズにはたくさんの穴があります。このチーズを医療現場の安全対策に例えると、一枚一枚のチーズが「確認作業」や「ルール」、「ダブルチェック」などの安全への取り組みを表します。でも、どの対策にも弱点や見落としがあり、チーズには穴があります。もし複数のチーズの穴がたまたま一直線に並んでしまうと、危険がすり抜けて事故になります。一方で、途中のどこかのチーズが危険を食い止めれば事故には至りません。

 

スイスチーズモデル

 

病院で何度も名前を確認することも、このチーズを増やすための取り組みの一つです。

たとえ一人が見落としても、別の確認によって事故を防ぐことができます。

 

 

 

「Speak Up」という考え方

SpeakUpという考え方

 

近年の医療安全で大切にされている考え方に「Speak Up(スピークアップ)」があります。

「おかしいと思ったことを遠慮せずに伝えること」です。どんな仕組みがあったとしても、やっぱり大切なのは「人の気づき」です。

先輩や上司の指示であっても、「何か違う気がする」「ちょっとわからないな」と感じたら伝えます。

患者さんだって遠慮はご無用です。「いつも飲んでいる薬と違う気がする」「名前を呼ばれたけど別の人かもしれない」と思ったりしたときに、その疑問を声に出すことが大切です。

黙っていることよりも、勇気を出して声を上げることが、患者さんの安全につながります。

 

 

教室でもSpeak Up!わからないと言える力

教室でもSpeak Up!わからないと言える力

 

看護技術を学ぶ場面でのSpeak Upは、「何かおかしい」と伝えることだけではありません。

「わからない」「もう一度確認したい」と声をあげることもまた、大切なSpeak Upです。

私は授業で看護技術演習を多く担当しているため、学生の「わかった」にも「わからない」にもたくさん出会います。どちらも歓迎すべき大切な反応ですが、時々どちらでもないことがあります。

「わかりました」と答えるのに、よくよく話してみると本当は十分に理解できていないことがあるのです。「わかりません」と言ってもらえれば、喜んで一緒に考えることができるのですが、言いづらい気持ちもよくわかります。

「わからない」と言える人は、自分を理解している人でもあります。

自分が何を知らないのかを認識できるからこそ学ぶことができ、それは学習者としての大きな強みでもあります。

「なんでもすべて知っている」ことも素晴らしい力ですが、知らないことに気づき、必要なときに調べたり、誰かに尋ねたりできること、その力のほうが、長い人生においてはより役に立つように思います。

 

 

「わからない」は学びの始まり

 

インターネットやAIの発展によって、答えを見つけることは以前よりずっと簡単になりました。

だからこそ大切なのは、答えを持っていることそのものよりも、「自分はまだわかっていない」と気づく力、そして「わからない」を学びに変える力なのかもしれません。

医療現場では、「わからないまま進めること」が事故につながる場合があります。だからこそ、自分の理解が十分でないことに気づき、確認することが大切です。

「わからない」は、決して恥ずかしい言葉ではありません。

それは学びの始まりを示す、とても前向きな一言なのです。

そして、その一言が患者さんの安全を守る大きな力にもなるのです。

 

 

参考・引用元

新体系看護学全書 基礎看護学① 看護学概論,メヂカルフレンド社

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この記事を書いた人

  • 箕浦 文枝
    箕浦 文枝 みのうら ふみえ
    所属:
    看護学部 看護学科
    学位:
    修士(看護学)
    専門分野:
    基礎看護学

    看護技術教育の研究に取り組んでいます。学生が「わかった!」「もっと学びたい!」と思える授業を目指し、デジタル技術を活用した教育方法を検討しています。看護の楽しさや奥深さを感じながら学び、将来の実践力につなげられるよう、日々主体的な学習を支援しています。

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