生体内の脳の免疫細胞を捉える新しい臨床イメージング技術を確立 〜アルツハイマー病の治療薬開発につながる新たな一歩〜
国立研究開発法人国立長寿医療研究センターと学校法人 神野学園 岐阜医療科学大学は、生体内の脳の免疫細胞を捉え、アルツハイマー病をはじめとする認知症の治療薬開発につながる、新しい臨床イメージング技術を開発しました。
脳内にはミクログリアという免疫細胞があり、脳の「守護者」として働きます。ミクログリアは脳内の異常を感知して、ウイルスや細菌から脳を守るだけでなく、ダメージを受けた神経細胞を修復する手助けも行います。アルツハイマー病では、脳内にアミロイドβが異常に蓄積します。ミクログリアはこのアミロイドβの蓄積の周囲に集まり、これを取り除こうとします。しかし、何らかの原因でミクログリアの機能が損なわれると、アミロイドβの蓄積が進行したり、周辺の神経細胞を傷つけたりすることがわかってきました。そこで、ミクログリアを標的とした治療薬の開発が望まれていますが、その開発に必要な技術として、これまで人において生体内でミクログリアを画像化する技術はありませんでした。今回、新たに開発したポジトロン放射断層撮影(PET)イメージング製剤である[11C]NCGG401 は、人の脳内のミクログリアのみを特定して画像化することが可能です。これは、アルツハイマー病の病態をより深く理解し、新たな薬の開発につながる画期的な成果です。
岐阜医療科学大学・薬学部薬学科・生物有機化学分野の小縣綾 助教(国立長寿医療研究センター・研究所・認知症先端医療開発センター・脳機能画像診断開発部 研究員兼任)、国立長寿医療研究センター・研究所・認知症先端医療開発センター・脳機能画像診断開発部の木村泰之副部長、加藤隆司部長らの研究チームは、この新規 PET イメージング製剤[11C]NCGG401 を開発し、若年男性ボランティアを対象とした人で初めて行われる臨床試験(First-in-human 試験)を通じて、その安全性と有効性を明らかにしました。[11C]NCGG401 は、脳内の免疫細胞であるミクログリアに発現するコロニー刺激因子 1 受容体(CSF1R)に特異的に結合することで、アルツハイマー病などの神経変性疾患の進行に重要な役割を果たすミクログリアの画像化を可能にします。
本研究成果は、2025年1月2日に、核医学分野を代表する専門誌『The Journal of Nuclear Medicine』にオンライン掲載されました。
Aya Ogata, Hiroshi Ikenuma, Fumihiko Yasuno, Takashi Nihashi, Saori Hattori, Yayoi Sato, Masanori Ichise, Kengo Ito, Takashi Kato and Yasuyuki Kimura. First-in-human study of [11C]NCGG401 for imaging colony-stimulating factor-1 receptors in the brain. J Nucl Med. jnumed.124.268699. https://doi.org/10.2967/jnumed.124.268699